2019年中部大学大会参加御礼
飼育野生動物栄養研究会2019年中部大学大会にご参加いただいた園館の皆様、大学研究者の皆様に御礼申し上げます。今大会では、希少動物保全の現場と動物園の役割を考えていく契機とする講演「絶滅危惧種の保全対策と動物園・水族館における生息域外保全のあり方について」と昨年の設立大会から継続した課題である「キリン短命問題を考える」について、それぞれ自然研の兼子峰光上席研究員と岡山理科大の宇根有美教授、石巻専修大学の坂田隆教授にお話しいただきました。
医学研究の対象である人間と実験動物、農学研究の対象である家畜に比べると野生動物の栄養生理は、ほとんどわかっていないです。野生下の観察事例からは、たとえば動物の体重すらわからない、栄養素摂取量のデータが無く、ましてや血液生化学情報などは付随しないため、「こんなものを食べていた」以上の情報がありません。栄養生理学としては致命的です。こうした中で、原生息地から離れた環境で動物を飼育するとき、飼育技術は手探りで経験的に開発されるしかなかったわけです。
しかし、本来の食物とは異なる食材を使わざる得ないとき、「トライ・アンド・エラー方式」しかないにしても、どういう根拠に基づいて「そのエサ」が考案され提供されたかのかは議論すべき点でしょう。木の葉といってもタンパク質などの主要栄養素ばかりか、生理活性の強い配糖体やフェノール類、テルペン類など二次代謝産物量は樹種によって著しく異なります。動物以外の「外的な理由」から「このエサ」しか用意できない状況もよく理解できます。なにより原生息地から離れているのですから。
でも、そのエサが「最善の選択かどうか」の判断基準がほとんどない状況を改善していくために研究会を発展させていきたいと考えています。アルファルファよりもチモシーが好きな個体だったのに、海外から指南書が出て一斉にアルファルファに切り替えた話がありました。もしかすると、この個体だけチモシーが好きだった理由を、一斉に切り替える前に、みんなで考えた方が良かったのかもしれません。
交通の不便な場所にもかかわらず、100名近い参加者がありました。皆様の関心を引き続けられるように進めて参ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
牛田一成